うちの会社は12月決算なので1月からが新年度。毎年、1月には全社員が集まるキックオフミーティングを行い、新年度の事業計画などのプレゼンテーションと新年会を行う。これは、どこの会社でもだいたい同じだとは思うが、ひとつだけ楽しみをということで、毎回ミーティングの一番始めには、ゲストをお招きしてお話を聴いている。
今回は、若手落語家No1の春風亭朝也さん。
なぜ、No1かというと、昨年NHK新人演芸大賞を受賞されたからだ。新年早々、一番勢いのある落語家さんをお招きできるとは大変縁起が良いことだ。講演台で立ち姿でのスピーチだったが、お着物をきちんと着て来てくださり、正月らしい演出となった。
一昨年から新卒採用を始めたこともあり、最近、若手営業が増えてきた。若手営業は、スマホやネットには明るいが、初対面のお客様へ訪問して最初の会話につまることも多い。名刺交換して一番最初に何をしゃべったら良いかわからないという。お客様も実際、無口な方も多いので、緊迫した空気のまま、いきなり商品サービス説明を始めるケースもあるようだ。
そこで、「お話のプロ」である噺家さんに講演を引き受けていただいた。高座に登壇して、ざぶとんに座り、演目に入るまでのいわゆる「話のまくら」の際に、演芸場の雰囲気をなごませて、お客様に「話を聴く姿勢」を取ってもらうまでのコツを学ぼうということになったものだ。
プレゼンテーションでは、「つかみ」とか、営業現場では「アイスブレーク」や「スモールトーク」と言われるような類いの「場の雰囲気の持って行き方」のコツを教えていただいた。
■第一印象が大事
・コミュニケーション良くするのに一番簡単な方法は、時間に遅れないこと
時間に遅れてしまうと、心に引け目ができるからどうしても最初の態度が卑屈になったり、言い訳からはじまったりと印象がよろしくない。噺家は、だいたい約束の30分前には到着するのが慣習。多少早く来る相手がいてもだいたい自分の方が先であれば、会った時には相手側が、まだ時間前なのに「遅れてすみません」みたいなことになり最初から優位に立てる。
・ニコニコ顔で明るく登場
人間の表情は、相手の顔につられて表情が作られる
・着物が大事
やはり、その場にふさわしい服装が大切。場の雰囲気を壊さない服装
・おでこを出す:明るい顔をする
落語家はおでこを出すのが基本。髪の毛でおでこが隠れると暗く見える。おでこを出すと、顔が明るく見えて好感度が上がる。
■最初の話し方
・話題は時候の挨拶がやはり良い。「寒いですね」「初詣はもう行かれましたか?」など。
そこで、少し面白い事を言って見る。そのときの相手の反応で、相手の「レベル」を見る。話を聴く能力がある人なのかどうか、反応が良いかどうかなど。そして以後はそのレベル(リテラシーやテンション)に合わせた調整(話すスピードや話し方)をする。
・ここまでの第一印象作りに失敗すると
後の挽回が厳しくなる。人間の「思い込み」は激しいので、一度、「好きでない」と決めつけられると後が大変。相手の印象をマイナス2からプラス10へ持って行くのは、プラス2からプラス10に持って行くよりも何倍も難しいという感覚。
・うまい相づちや、質問で相手の話を引き出しながら、出方を見て、相手の心理を読みながら。
・話すスピードは、相手に合わせる。自分勝手なスピードはNG。演芸場に若い方が多い時は、少し速いテンポで、高齢の方が多い場合はゆっくりとしたテンポで話すようにしている。
・話すトーンも、人間は年齢により心地よいと感じる周波数が違うそうなので、若い人には高いトーンで、高齢者には低いトーンでお話するようにすると良い。
■話をはじめたら
・言葉の順序を工夫する。
女性に「少し太ってるけど、可愛いね。」はセーフかもしれないけど、「可愛いけど、少し太ってるね。」は、はり倒される危険性がある。
・話の内容に応じて、声のトーンを変えて見る。同じトーンでしゃべり続けると相手の集中力が持たない。
人間は、ひとの話には2分間くらいしか集中力が持たないから、いろいろ工夫が必要。重要な話に入る時は、少し声のトーンやボリュームを上げると注意を促せる。落語も、まくらから本題の演目に入る時は、トーンを上げてお客様の頭の切り替えを促す。
・少しオーバー目に表情を出してしゃべった方が相手の理解を得られやすい
控えめな表現では、案外本当にはわかってもらえてないケースが多い。
■口が滑ったり、失礼・不都合なことを言ってしまった場合は
何がなんでも、こじつけでもいいから、その場でなんとか言い繕うなど、挽回を図る最善の努力をしたほうが良い。なんとか切り抜けること。ただ謝るより、なんとか頑張った方が良い。ここをやり過ごすと、あとに禍根を残す。
■詰めが甘い人が多い
最初に会った時のご挨拶から、最後の挨拶までがコミュニケーションなので最後まで気を抜いてはいけない。
別れ際のエレベータでおじぎをする場面では、「まだ、ドアが閉まってないのに、もう頭を上げてしまって、お互いに顔を見合わせて気まずい思いをするなんかは、最後の詰めが甘い。」
このように、既にベテランのビジネスマンとしても「なるほど」な事が多く、大変勉強になる内容だった。
講演が終了し、エレベータ前で僕が朝也さんをお見送りするときに、エレベータの中と外でお互いに頭を下げたままドアが閉まっていったが、お互い変に意識していて面白かった。
春風亭朝也さんはまだお若いのに、さすがに「話のプロ」。「話」をとことん突き詰めて研究されているし、ホントに隙なく精進されていらっしゃる。プロの仕事はこうでなくちゃね、とみんな思った。と思う。
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落語家に学ぶ〜初対面の人とのコミュニケーション術〜
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